10歳になってポケモンをもらった子どもは、旅に出る。
それはこの町で生まれた子どもたちのお約束で、だからぼくもそれを疑ったことはなかった。ほんとは、そのお約束はこの町だけじゃなくってこの世界共通のものだったらしいけど、今までぼくの世界は小さなこの町だけだったわけだから、べつに見当違いなわけでもない。
一応、そう主張しとく。

「え、いっしょにいかないの?」
「ばっか、行くわけねーだろ! さっきおれが言ったこと聞いてなかったのかよ? ポケモン図鑑なんて、おれひとりで完成させてやるっつーの!」

ぼくといっしょに、幼なじみのグリーンもポケモンをもらった。ポケモン図鑑ももらった。
グリーンとぼくはおとなりさんで幼なじみで同い年で、物心つくまえからいっしょに遊んでいた、いちばんのなかよしだ。

「ぼく、グリーンといっしょにいきたい」
「ばかなこと言ってんなよ。大体レッド、おまえ旅するならのんびりいきたいって言ってたじゃねーか」
「え……そうだけど。よく覚えてたね」
「あったりまえだろ」

もしかして、ぼくのこと心配してくれたのかな。
たぶん、そうなんだろうな。グリーンは素直じゃないけど、心配性だから。

「おれは、のんびりよりさっさと行きたいからな! だから、ちょーどいいじゃん。おれさまが先に行って、安全かどうかたしかめてやるよ!」
「…………」

うん、そうだった。しかも、過保護だった。

「それに、おれたちはポケモンリーグめざすんだからな! ライバルがいっしょに旅してたらおかしいだろ」

つい黙ってしまったぼくに追い打ちをかけるように、グリーンがたたみかけてくる。

「あ……そっか」

そういえば、そうだった。グリーンがポケモンリーグのチャンピオンを目指すっていうから、ぼくもいっしょに目指すことにしたんだった。
ポケモンは好きだし、ポケモンバトルも好きだから、その頂点を目指すのはきっと楽しいだろうなって思った。グリーンに「これからおれたちはライバルだぜ」って言われて、その目がきらきら輝いてたから、ちょっとわくわくしながらうなずいたことは覚えてる。
……ちなみにぼくはそれ以上に、グリーンといっしょの旅するなら楽しいだろうなって、全然ちがうことを考えてわくわくしてた。

「だろー? んじゃな、先行くぜ!」

でも、グリーンは最初からぼくといっしょに行くなんてこと、考えてなかったみたいだ。
だから、そのときはさっさと町を出ていったグリーンの背中を、ぼんやりと見送ってしまったんだけど。

「ふたりいっしょのほうが、安全なのになあ……」

でも、ライバルならしょうがないのかもしれない。
相棒とかならともかく、年中いっしょにいるライバル同士なんて、今まで読んだどんな本にも出てこなかった。

「……しょうがない、がまんしよう」

べつに、ずっと会えないわけじゃないんだし。
目指すゴールは同じなんだから、必ず会えるはずだ。
それに、グリーンは心配性で過保護で世話焼きだから、絶対どこかでぼくのことを待っててくれると思う。
とりあえずは、そのときを楽しみにすることにした。
それまでは博士にもらったポケモンを育てて、新しいポケモンをゲットすることに集中しよう。図鑑はきっとグリーンが完成させてくれるから、それでいいや。

「……博士といえば」

じつはぼくがポケモンをもらう前に、ちょっと信じられないことがあった。
いくらなんでもオーキド博士、自分の孫の名前を忘れるのはどうかと思うな。グリーンはああ見えてさみしがりやなんだから、バレたら泣いちゃうよ、きっと。

……まあ、いいか。
ぼくはグリーンの名前、絶対に忘れたりなんかしないし。
グリーンが泣いちゃったら、ぼくがなぐさめればいいんだよね。

……ってことは、そうか。
やっぱり、はやくグリーンのこと、追いかけなくちゃ。

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レッドの場合