サマーバケーション

サンプル

「うわあー、佳主馬くんだー! 久しぶり! 大きく……なって、ない……かも?」

 人の顔を見るなり満面の笑顔でそんな失礼なことを口にした健二の顔を、佳主馬はじろりと見上げた。
 佳主馬の目つきは、決してよろしくない。それくらいの自覚はある。そんな迫力ある目つきをますます鋭いものにして、しかも上目遣いで睨みつけたりしたら、かなりのインパクトを与えることもよく知っていた。
 健二に悪気なんてないことはよくわかっているが、それとこれとは話が別だ。人間、気にしていることをつつかれれば、誰だってへそくらい曲げたくなる。

「……開口一番、それ?」

 そのせいか、佳主馬の口から出た言葉は思った以上に険を帯びていた。
 やりすぎたかな、と一瞬そんなことを思う。だが、そんな心の声が本人以外に聞こえるはずもない。

「ご、ごごごごめんっ! ごめんなさいっ!」

 じつに凶悪な仏頂面を目の当たりにしてから、ようやく自分がうっかり口を滑らせたことにようやく気づいたらしい健二が、泡を食って目を白黒させた。
 その動転っぷりに、少しだけ佳主馬の機嫌も浮上する。健二には悪気もなければからかう気もないことはわかっているので、それだけで溜飲もあっさり下がるのだ。
 ……もともと、佳主馬は彼の訪れを心待ちにしていたのだから。

「そういう健二さんこそ、全然変わってないね」

 だから、あまり積極的には動かない表情筋を動かして、ニヤリと笑ってみせる。慌てふためいている健二にも、意図がきちんと伝わるように。
 改めて見上げてみた健二は、冗談でもなんでもなく、一年前と本当に変わっていなかった。もう、成長期は終わってしまったのかもしれない。こうやって見上げる首の角度すら、ほとんど変わっていないような気がする。
 ──それはそれで、佳主馬の背もほとんど伸びていないという証のようなものではあったけど。
 改めてそれを実感してしまうと複雑なものはあるが、今度は誰に言われたわけでもなく勝手に気づいてしまっただけなので、八つ当たりもできない。というか、正確にはしようとも思わなかった。
 去年から、変わっていないこと。もしかしたら、それが嬉しかったのかもしれない。
 ずっとOZやメールでしかやりとりしていなかった──できなかった、、一年ぶりに会う友人との繋がりがずっと保たれていたように思えて。

「あははは、言われると思った」

 怒っていた、というよりは拗ねていた佳主馬の雰囲気が和らいだことを察したのか、あからさまにホッと表情をゆるませた健二がへにゃりとした笑みを浮かべた。